
特定技能制度のもとでインドネシア人材を採用する企業が増える中、採用後の定着やトラブルに悩む声も少なくありません。背景には、日本企業とインドネシア人労働者の間にある文化・言語・期待値のギャップが存在しています。
こうした課題を避けるためには、成功事例だけでなく、過去の失敗例から学ぶ姿勢が不可欠です。どのような場面で問題が起きやすいのか、企業が事前にどんな対策を講じればよいのかを理解しておくことで、採用の失敗を未然に防ぐことができます。
インドネシア人材は、誠実さ・宗教的価値観・家族を大切にする姿勢など、日本の現場にフィットしやすい特長を持っています。その潜在力を最大限に引き出すためにも、採用企業側がしっかりと準備し、受け入れ体制を整えることが重要です。
本記事では、インドネシア人特定技能労働者の採用において企業が陥りやすい失敗例と、その具体的な回避策について詳しく解説します。
失敗例①:コミュニケーション不足による誤解
特定技能で採用されたインドネシア人労働者との間でよく見られる課題が、言葉の壁によるコミュニケーション不足です。例えば、「分かった?」という質問に対して、実際には理解できていなくても笑顔でうなずく場面が見られます。これは、日本特有の察する文化とインドネシア人の控えめな性格が重なり、誤解を招く原因となります。
実際にあった事例では、作業手順の変更を日本語で説明した際に十分に伝わっておらず、ミスやケガに繋がる事故が発生しました。企業側は「何度も説明したつもり」でも、本人は「理解できず質問できなかった」ケースが少なくありません。
対策:やさしい日本語と通訳体制の整備
このような問題を防ぐには、まず「やさしい日本語」を積極的に使うことが有効です。例えば「作業を開始してください」ではなく「はたらきはじめてください」と表現を変えるだけでも、理解しやすくなります。
さらに、多言語マニュアルや翻訳アプリの導入もおすすめです。初期段階では、通訳者や母語サポーターを用意することで、安心して質問できる環境づくりが可能になります。
コミュニケーションの基本は、「伝えたつもり」ではなく「伝わったかどうか」を確認する姿勢です。定期的に面談やヒアリングの場を設け、双方の認識のズレを早期に発見・修正することが大切です。
失敗例②:文化・宗教への理解不足
インドネシア人特定技能労働者の多くはイスラム教徒であり、日常生活や仕事においても宗教的な習慣や制約を重視しています。しかし、日本の職場ではこうした背景への理解が不足していることが多く、トラブルやストレスの原因となるケースがあります。
例えば、ラマダン(断食月)の期間中に、通常通りの勤務や食事の提供を求めたり、礼拝の時間や場所を確保せずに勤務を続けさせるような状況が起きると、本人にとって大きな精神的・身体的負担になります。
実際に、礼拝の時間を申請したところ「仕事中に祈るのはおかしい」と拒否されたというケースもあり、これは退職や不信感のきっかけ
対策:事前の研修と社内ガイドラインの作成
このようなトラブルを防ぐには、まず企業側がイスラム文化・宗教についての基本的な理解を持つことが重要です。入社前に日本人スタッフ向けの研修を実施することで、無意識の偏見や誤解を減らすことができます。
また、社内に礼拝スペースを設ける、ラマダン期間中は軽作業へのシフトや勤務時間の柔軟な調整を行うなど、具体的な対応策をガイドラインとして整備しておくと安心です。
宗教・文化への尊重は、単なる「配慮」ではなく、信頼関係を築くための前提条件です。インドネシア人材が安心して働ける職場づくりには、こうした小さな工夫の積み重ねが大きな意味を持ちます。
失敗例③:職場での孤立・人間関係の問題
インドネシア人特定技能労働者の定着がうまくいかない理由として多いのが、職場内での孤立です。初期の研修や受け入れ対応が一通り終わった後、継続的なフォローが不足してしまい、職場に馴染めずに離職してしまうケースが少なくありません。
特に地方の職場では、インドネシア人材が唯一の外国人スタッフであることも多く、文化や言語の違いから日常会話に入れない・相談できる人がいないと感じやすい環境になります。
ある企業では、最初は明るく元気に働いていたスタッフが、数ヶ月後には無断欠勤をするようになり、最終的には退職してしまいました。原因を探ると、相談できる相手が社内におらず、孤独を感じていたことが大きな理由でした。
対策:メンター制度や定期面談でのケアが効果的
このような事態を防ぐためには、入社後も継続的にサポートする体制が不可欠です。たとえば、メンター制度を導入して、1人の日本人社員が定期的に様子を確認したり、困りごとに耳を傾ける役割を担うことはとても有効です。
また、月1回の定期面談を設けて、業務だけでなく生活面や人間関係の悩み
職場で安心して働くためには、「業務を教える」だけではなく、人と人のつながりを感じられる環境が重要です。孤立を防ぐ仕組みづくりが、定着率向上に直結します。
失敗例④:仕事内容と期待のミスマッチ
インドネシア人特定技能労働者が早期に離職してしまう原因のひとつが、実際の仕事内容と本人の期待が大きく異なっていたというケースです。
たとえば、求人票には「軽作業」と記載されていたのに、実際の現場では重労働や危険を伴う作業が多かった場合、本人は「話が違う」と感じ、不信感や不満を抱くようになります。中には、来日前の説明と来日後の業務内容が全く異なり、数週間で帰国を希望する例も報告されています。
また、特定技能の制度により来日する労働者は、技能実習経験者が多く、ある程度の経験や知識を持っていることもあります。そうした人材に対して、単純作業だけを割り当ててしまうと、「成長できない」と感じてしまい、モチベーションの低下につながることもあります。
対策:採用前後での業務説明と職場体験の導入
このようなミスマッチを防ぐためには、採用前の段階での丁寧な情報提供が重要です。仕事内容を抽象的に伝えるのではなく、写真や動画を使って実際の作業環境を見せる、現場の1日の流れを具体的に説明することが効果的です。
また、可能であれば来日前のオンライン職場体験や、来日直後の「お試し期間」を設けることで、実際に働くイメージを共有しやすくなります。
採用後も、本人が感じているギャップがないかを定期的に確認することが大切です。「伝える努力」と「理解を確認する姿勢」が、定着率アップのカギになります。
失敗例⑤:生活面の支援不足
インドネシア人特定技能労働者の受け入れにおいて、仕事以外の生活面での支援が不十分なことが原因で不満が蓄積し、離職につながるケースは少なくありません。
たとえば、住居が職場から遠く通勤手段も整っていない、周辺に買い物ができる場所がない、家賃や水道光熱費の仕組みが説明されていないといったことが、日常生活における大きなストレスとなります。
特に来日直後は日本語力も十分でなく、文化やルールも異なるため、小さなことが大きなトラブルの引き金になりやすいのが現実です。生活の不便さが仕事へのモチベーションにも悪影響を及ぼします。
対策:生活インフラの整備と相談窓口の設置
こうした問題を回避するためには、受け入れ前に生活インフラをしっかり整備することが欠かせません。職場に近い住まいの確保や、通勤手段の確保、生活に必要な施設やサービスの案内など、生活全般にわたる支援が必要です。
また、入社後も困りごとを気軽に相談できる多言語対応の相談窓口や、生活支援担当者の設置を通じて、早期の問題発見と解決が期待できます。
仕事だけでなく「生活の安定」があってこそ、長期的な定着が可能になります。企業側の丁寧なサポートが、外国人材との信頼関係構築に直結します。
まとめ:成功のカギは「理解・準備・継続的支援」
インドネシア人特定技能労働者の採用で失敗しないためには、社内全体での取り組みが不可欠です。各部門が協力して、外国人労働者が快適に働ける環境を整備することが求められます。特に、言語や文化の違いを理解し、事前の準備や支援体制を強化することが、長期的な定着に大きく影響します。
失敗例から学び、「理解・準備・継続的支援」が成功のカギであることがわかります。仕事や生活面でのサポートを充実させることで、外国人労働者は安心して仕事に集中でき、企業にとっても非常に貴重な戦力となります。
企業は、長く安心して働ける環境づくりを目指すことが、インドネシア人特定技能労働者との信頼関係を深めるための重要なステップです。少しずつでも改善を積み重ねることが、最終的には双方にとって満足のいく結果をもたらすでしょう。